身体抑制の必要性は理解できるけど、実施するのがつらい
24歳女性、1年目看護師、精神科病棟勤務
精神科で働いている、新人看護師です。患者さんとゆっくりと向き合える看護がしたくて、精神科での就職を選択しました。しかし私が配属された部署は、身体抑制が必要な患者さんが入院してきます。
患者さんの精神症状によっては、身体抑制の必要があることは理解しています。しかし患者さんの身体を抑制帯で固定し、行動の自由をうばうことが看護師の仕事なのか疑問に感じ、まるで悪いことをした人を罰しているように思えて、身体抑制の実施がつらいです。
このような気持ちでこの先精神科で仕事を続けていけるのか、正直自信がありません。私は、精神科で働くことに向いていなかったのでしょうか。
精神科では、患者さんの精神状態により医師から身体抑制の指示が出されることがあります。しかし治療のためとはいえ、身体抑制に戸惑い衝撃を受ける看護師は少なくありません。
まして新人看護師であれば、患者さんを身体抑制しなければいけないことをつらいと感じて悩むのも、無理のないことです。
患者さんの身体抑制することがつらいと思う感情には、2つの理由が考えられます。ひとつは、身体抑制をされる患者さんに対し申し訳なく気の毒だという感情をいだく。そしてもうひとつは、本当にこの患者さんには、身体抑制が必要なのだろうかという疑問です。
ではこの2つの視点から、身体抑制の必要性や精神科看護師の役割とは何なのかについてお伝えしていきますので、参考にしてみてください。
1.身体抑制は患者さんの命を守るための一時的措置
精神科における身体抑制は、緊急性がある場合患者さんの意思同意がないまま行われる現状があります。そして身体抑制を体験した患者さんは、退院した後も身体抑制を用いた治療方法に納得されることはなく後々まで精神的苦痛を与え続けることが多いです。
なぜ、精神科では患者さんに苦痛を与えてまで身体抑制が行われているのでしょうか。まずは、身体抑制のガイドラインを確認してみましょう。
<精神科治療において、身体抑制が必要とされる精神状態>
・自殺期とまたは自傷行為が激しく切迫している場合
・多動または不穏状態である場合
・精神障害のために、そのまま放置すれば生命に危険が及ぶ恐れがある場合
(精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律第37条第1項より参照)
上記3項目にあるように、患者さんの命に危険があると判断される状況下では、一時的な措置として施行されるのが身体抑制です。一時的措置ですので、早急に別の対応に変更し身体抑制を解除すること、とガイドラインには記載されています。
身体抑制の必要性は理解できていると言われているので、あえて取り上げる必要はないかもしれません。ただもう一度身体抑制の必要性を整理するため、事例を2つあげてみます。
1-1.自殺願望のある患者さんの身体抑制
自殺願望が強く切迫感のある患者さんは、発語も少なく担当医や看護師にも感情を表出することは少なく表情も乏しいことが多いです。無抵抗な相手に対し、身体抑制しなければいけない立場からすると、なんとも申し訳なくつらい感情もわいていきます。
「自殺願望が強くても今は入院しているのだから、身体抑制までしなくてもいいのではないだろうか」というような、考え方もできます。
しかし、人間の内に秘めた「死にたい」願望が放つエネルギーの威力はすさまじく、入院したことによる絶望感が余計に自殺願望の決意を強くしてしまうことがあります。
家族は「入院したから、もう大丈夫」と思われる方が多いのですが、それは逆です。たとえ入院中であっても自殺願望が根強ければ、場所を選ばず自殺行為に至ってしまうケースは実際にあります。
無抵抗な相手に身体抑制することに抵抗を感じるのは無理もありません。しかし、患者さんの自殺願望のエネルギーが高い状態にある患者さんは、一時的に身体抑制することで患者さんの命を守る手段になります。
自殺願望が強く、身体抑制を余儀なくされている患者さんに対して看護師としてできることは、患者さんに薬を飲ませることだけではなく「もう一度生きてみよう」と思える関わりをすることです。
身体抑制をすることはつらいですが、その感情をもっている看護師はさほど多くはありません。つらいと思える看護師だからこそできる看護は、とても貴重ですよ。
1-2.多動不穏が強い精神状態の患者さんの身体抑制
入院時に妄想や幻聴が活発となり、多動不穏が強く安静が保てない患者さんに対して身体抑制が行われることがあります。患者さんにしてみれば、数名の看護師に取り囲まれ身体抑制されるのですから、ものすごい恐怖心と何とか逃れようともがき暴れます。
不穏状態が強い状態では、どんな言葉をかけようとも、担当医の言葉は罵声を浴びせかけているように聞こえ、看護師は馬鹿にして大笑いしているようにも見えているかもしれません。
しかし必死の抵抗と訴えを続ける患者さんに対し、看護師が身体抑制を行う姿はまるで罰則を与えているかのように見え、身体抑制を実施するのをつらくなりますね。ただ一番つらい思いをしているのは、患者さん本人です。
身体抑制する看護師もつらい、という気持ちをもって看護にあたれば、患者さんの精神症状は安定していきます。決して罰則を与えているわけではないと、解釈してください。
2.担当医と患者さんの状態についての情報交換をする
次に身体抑制を実施するのがつらい理由として考えられることは、患者さんの精神症状から見て、本当に身体抑制が必要なのだろうか、という疑問をもっているのではないでしょうか。
新人看護師時代は、経験が浅いことがネックになり疑問に感じたことを発言してはいけないように考えてしまいがちです。しかしむしろ精神科看護に慣れてしまった先輩看護師よりも、新人看護師の視点の方が正しく冷静な判断ができますよ。
疑問がある場合には、担当医に直接患者さんの状態を聞いてみましょう。担当医の視点と看護の視点にも違いがありますので、なぜ身体抑制が必要と判断しているのか説明を聞くことができます。
精神科は担当医と看護師が情報や意見交換をしながら治療にあたる必要がありますので、疑問や納得できないまま看護するよりも、担当医の診断内容を聞く方が気持ちの整理ができます。
3.精神科看護における看護師の役割
精神疾患は、内服治療が主体と言われています。ただ精神科病棟では、患者さんの状態安定には、精神科看護師の関わりも大きいですよ。
身体抑制の実施はつらい、でも1日でも早く解除できるために看護師ができることがあります。その気持ちをもっている看護師だからこそできる看護もあるはずです。一度気持ちの整理するために、参考にしてみてください。
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